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東京地方裁判所 平成9年(ワ)27348号・平12年(ワ)209号 判決

平成九年(ワ)第二七三四八号役員職務執行停止請求事件(甲事件)

平成一二年(ワ)第二〇九号地位確認等請求事件(乙事件)

甲事件原告・乙事件補助参加人 X管理組合代表者管理者 A

右訴訟代理人弁護士 藤川元

甲事件被告・乙事件原告 B

同 C

同 D

同 E

同 F

同 G

同 H

右六名訴訟代理人弁護士 宮原清貴

右六名甲事件訴訟代理人弁護士 嵜山雄治

右六名乙事件訴訟代理人弁護士 石井慎一

乙事件被告 X管理組合

右特別代理人 V

主文

一  甲事件原告の請求をいずれも却下する。

二  乙事件原告Bと乙事件被告との間で、同原告が同被告の管理者であることを確認する。

三  各乙事件原告(B及びHを除く。)と乙事件被告との間で、同各原告が同被告の各理事であることをそれぞれ確認する。

四  乙事件原告Hと乙事件被告との間で、同原告が同被告の監事であることを確認する。

五  各乙事件原告と乙事件被告との間で、平成九年五月二五日に開催された乙事件被告の臨時総会における別紙(二)記載の決議及び同年一一月二九日に開催された乙事件被告の通常総会における別紙(三)の各決議がいずれも存在しないことを確認する。

六  訴訟費用は、甲事件被告・乙事件原告らに生じた費用の二分の一と甲事件原告に生じた費用を甲事件原告の負担とし、甲事件被告・乙事件原告らに生じたその余の費用と乙事件被告に生じた費用を乙事件被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

1  甲事件被告Bは、別紙(一)記載の組合の理事長の職務を執行してはならない。

2  被告B、同C、同D、同E、同F、同Gは、別紙(一)記載の組合の理事の職務を執行してはならない。

3  被告Hは、別紙(一)記載の組合の監事の職務を執行してはならない。

二  乙事件

主文第二項から第五項までと同旨

第二事案の概要

本件は、

1  甲事件において、甲事件原告・乙事件被告補助参加人(以下、便宜上、原則として単に「原告」という。)が、各甲事件被告(乙事件被告。以下、便宜上、原則として、各被告につき単に「被告B」等とその氏を用いて表示し、又は「被告ら」という。)に対し、これらの者が区分所有者であるマンションの管理組合(乙事件被告)に関し、被告Eが監事として招集した臨時総会において被告らをその理事及び監事に選任する旨の決議が無効である等として、被告らの職務執行停止を求め、

2  乙事件において、被告ら(乙事件原告ら)が右決議が有効であるとして、乙事件被告(以下、便宜上「被告組合」という。)に対し、その地位の確認を求めるとともに、その後に甲事件原告が招集した総会の決議が存在しないことの確認を求める

事案である。

一  前提となる事実(争いのない事実及び証拠〔ここでは弁論の全趣旨を含む。以下、この項について同じ。〕により認定される事実。証拠により認定される事実については、かっこ書き内にその証拠を掲げる。)

1  当事者、関係者等

(一)  被告組合は、別紙(一)記載のリゾートマンションであるX(以下「本件建物」という。)の区分所有者(住戸たる専有部分総数二四二戸。議決権数三〇三。)で構成される管理組合である。

(二)  原告は、本件建物の区分所有者の一人であり、第六期の理事長の職にあったものである。

(三)  被告らは、本件建物の区分所有者、その近親者又は法人である区分所有者の代理人である。

(四)  Y1株式会社(以下「本件会社」という。)は、被告組合が本件建物の管理を委託した管理会社である。

2  雪よけ屋根改修工事

(一)  本件建物の雪よけ屋根は、耐久性に難があったため、被告組合は、コンクリート屋根に改修する工事(以下「本件工事」という。)をすることとし、平成七年一一月二六日の通常総会(以下、被告組合の総会について、たとえば、「平成七年一一月二六日総会」等その年月日を付して呼称し、必要に応じ、通常総会又は臨時総会の区別を表示する。)において、本件工事の予算額を一二〇〇万円とし、工事の執行については第六期理事会に一任する旨の決議をした。

(二)  その後、被告組合の理事会は、平成八年四月六日開催の理事会において、本件会社に対し本件工事を代金一六〇〇万円で発注することを決定し、同年五月九日、本件会社に対し右のとおり発注した。

なお、Y2株式会社(以下「Y2」という。)は、本件会社から本件工事を下請けし、平成八年四月ころ着工し、同年七月にこれを完了した。

3  平成八年一一月三〇日の総会及びその後の経緯

(一)  平成八年一一月三〇日、第六期通常総会が開催された。

第六期理事会は、理事が原告(理事長)、I、被告F、J、K(以下「K」という。)、L、M、監事被告Eである。

(二)  被告D、同Eらは、右総会において、決算報告書に監事である被告Eの署名押印がないとして、決算を議題として取り上げることについて異議を述べたことから、右総会は、紛糾し、原告を含む理事らは退席した。

被告D、同Eらは、その場で被告らを次期役員として選任したが、その決議は、出席議決数不足により無効であり、被告らも本件会社の指摘によりその旨了解した。

(三)  また、被告E、同D、同Cらは、平成九年一月終わりころ又は同年二月初めころ、別紙(四)の「X管理組合(継続)総会のお知らせにご注意!!」との書き出しで始まる書面(甲六の二。以下「本件第一文書」という。)及び別紙(五)の「<1>雪よけ工事事件(1200万円以下で行なうべき工事に1600万円支出=総会議決違反)の本質はリベート事件である。」との書き出しで始まるビラ(甲六の一。以下「本件第二文書」という。)を区分所有者に郵送した。

(四)  第六期役員の任期は平成八年一一月三〇日までであったが、前記(一)の総会において新役員が選任されなかったため、被告Eは、本件規約三四条三項の「任期の満了又は辞任によって退任する役員は、後任の役員が就任するまでの間引続きその職務を行なう。」との規定により、その後も監事の職にとどまった。

(五)  第六期役員により、平成九年二月九日開催の総会が招集されたが、出席議決件数の不足により流会となった。

なお、右総会において、本件会社の顧問弁護士から、本件工事に関し、事実調査のための中立的な委員会を設置する提案がされたが、実現には至らなかった。

4  被告Eが招集した臨時総会等

(一)  本件規約においては、理事長は、毎年一回の通常総会のほか、必要に応じて理事会の議を経て臨時総会を招集するとされている(本件規約四〇条)ほか、理事長や理事会の判断や行動を是正する趣旨で五分の一以上の数の議決権を有する区分所有者の総会招集権(本件規約四二条)、監事の総会招集権(本件規約三九条二項)が定められている。

(二)  被告Eは、本件規約三九条二項に基づくものとして、平成九年三月六日付け臨時総会の招集通知書を区分所有者に配布し、同月二三日に臨時総会(以下「本件臨時総会」という。)を招集した。その議案は、次のとおりである。

(1)  第一号議案 議長の選任

(2)  第二号議案 第七期管理組合役員の選任について

(3)  第三号議案 本件会社との管理委託契約の解除及び新管理会社との管理委託契約の締結について

(三)  被告らは、本件臨時総会において、被告B、同C、同D、同E、同F及び同Gがいずれも理事に、同Hが監事にそれぞれ選任する旨の決議(以下「本件選任決議」という。)がされ、被告Bが理事長に就任した旨主張し、原告が被告組合の管理者であることを争っている。

なお、本件臨時総会における本件決議は、次のとおりである。

議決権数 三〇三(本件規約四四条)

賛成 一四九

反対 九

棄権 五

5(一)  原告ら第六期理事会構成員は、本件規約三四条三項に基づき継続して第七期役員を務めることになったとして、同年五月二五日、総会を招集開催し、原告、Oらが理事として、K及びIが監事としてそれぞれ選任され、その後行なわれた理事会において原告が理事長に選任された。

(二)  その後、原告は、同年一一月二九日に通常総会を開催し、理事として原告、O、P、Q及びIが、監事としてK及びNが選任され、同年一二月四日に開催された理事会において、原告が理事長に選任された。

二 争点

被告Eが被告組合の監事としてした本件規約三九条三項に基づく本件臨時総会の招集は、その要件を満たさず、又は右招集は権利濫用に当たり、したがって、右総会における本件選任決議は、無効となるか。

1  原告及び被告組合の主張

本件招集は、以下の理由から、その要件を満たさず、又は権利濫用に当たり、したがって、本件選任決議は、重大な瑕疵があり、無効である。

(一)  被告組合は、権利能力なき社団であり、その管理及び運営については、管理規約によるほか、民法五二条ないし六七条が類推適用される。そして、商法二四七条、同二五二条のような特別規定がない以上、その総会においてされた決議に内容又は総会招集の手続や決議の方法が法令や定款に違反する瑕疵ある場合には、右決議は、原則として無効である。

(二)(1)被告組合の監事は、総会において区分所有者により選任される被告組合の役員の一つであり(本件規約三三条)、その職務権限については、本件規約三九条で定められるほか、民法五九条が類推適用される。

また、監事は、被告組合とは委託関係にあり、その業務を執行するに当たり善管注意義務を負う(民法六四四条)。

(2) 監事は、管理組合の業務の執行及び財政の状況を監査し、その結果を総会に報告する義務を負い、この職務を行なうため、理事会に出席して意見を述べることができるほか、「管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるとき」に総会を招集することができる(本件規約三九条)とされている。

(3) 監事の総会招集権限は、二次的なものにすぎず、善管注意義務を尽くして被告組合の業務の執行等を監査し、客観的にみて不正がある疑いがきわめて強い場合において、監事が不正があると認める場合にこれを行使することができると限定して解釈すべきである。

(4) 仮に、そうでないとしても、不正がないにもかかわらず、監事が故意又は過失により不正があると認めて総会を招集した場合には、善管注意義務違背となり、又はその招集行為は権利の濫用に当たり、招集手続は瑕疵を帯び、これに基づいて開催された総会における決議は無効である。

5 さらに、監事の総会招集権限の二次的性格から、軽度の規約違反は本件規約三九条二項にいう不正からは除外され、そのような違反を理由とする招集行為は権利の濫用となる場合がある。

(三)  本件臨時総会の招集理由は、本件工事につき、第六期理事会が総会決議を経ることなく総会決議を経た予算額を四〇〇万円超える一六〇〇万円で発注したこと、その際、本件会社が工事を受注したY2から二〇パーセントのバックマージンを受け取ったこととされている。

なお、被告Eは、平成八年一一月三〇日の総会後、第六期役員が管理会社と癒着し、本件支出のうち四〇〇万円がリベートであり、第六期理事又は管理会社がリベートを得るために管理会社の推薦する業者に工事を請け負わせた旨主張した。

(四)  しかし、以下のとおり、本件工事について不正な支出はない。

(1) ア 第六期理事会は、Y2ほか二社に本件工事を見積らせ、一六一八万円の最低価格をつけたY2に工事を、本件会社に工事監督をさせ、値引交渉の上、同社への監督指導料及び消費税を併せて合計一六〇〇万円で本件会社に本件工事を発注し、同社がY2に工事を請け負わせた。

なお、右の見積がいずれも予算額を超えた理由は、落雪量に照らし当初予定した屋根の強度に問題があり、仕様を変更したためである。

予算超過については、同年四月六日の第六期理事会において、次回通常総会であらためて増額予算を設けると工事完了が積雪時期に間に合わなくなるため、工事を先行させ通常総会で追認を得るとすることを全員一致で可決し(実際に五月二五日総会で事後承諾を得た。)、その後本件工事完了まで役員からの反対はない。

したがって、このような支出は不正なものに当たらない。

イ 監事である被告Eは、毎回理事会に出席して右方針に賛成し、値引交渉に参加して理事会の方針を推進した。

また、被告E及び同Fも出席した平成八年一一月九日の第六期理事会においては、同月三〇日開催の総会の議案について話し合い、本件工事に一六〇〇万円を支出した旨報告して事後承認を得ることとし、第六期収支計算書を作成した。

(2)  本件工事に関し、理事会役員、本件会社は一切リベートを受けていない。また、本件会社に対する一六〇万円余の支払について、被告は、右金員は支払う根拠がない旨主張するところ、この点は、本件臨時総会当時は主張されておらず、本件訴訟においてこれを取り上げるのは不当であることはさておくとしても、右支払は、工事の監督料であり、不正なものではない。管理会社に工事の最終的責任を負わせるため、管理会社が工事を請け負い、それを下請に出させることは一般に行なわれている。そして、本件会社が相応の監督料を受領するのは当然であり、他方、同社がY2との間で監督料の金額をどのように決めようと被告組合は関知しないところである。

この点は、被告Eもそれを承知し、賛成していた。

(3)  なお、被告は、本件会社の担当者がY2の担当者と毎日のように飲み歩いていることも不正であるとも主張するが、これも本件訴訟において初めて取り上げられたものであり、不当である上、そのような事実もない。

(五)  また、被告Eは、理事会での議論を通じて本件工事の経緯を承知しており、客観的にみて不正がある疑いが強い状況にもなかった。

(六)(1)  仮に、本件支出のような態様による支出が総会決議に反するため不正に当たるとしても、前記諸事情を考慮すれば、その程度は低く、あえて総会を招集することができる程度には至っていない。

(2) 仮にそうでないとしても、監事たる被告Eは、本件支出が不正であると判断したのであれば、善管注意義務に基づき、本件工事の発注前に、理事会において反対意見を述べ、理事を説得するなどの努力をし、理事会がこれを容れない場合に総会招集権を行使すべきである。

(七)(1)  ところが、被告Eは、次の各行為に及んだ。

ア 被告Eは、監事として第六期理事会に毎回出席し、理事会において予算を超える発注に反対せず、値引きを主張して自らその交渉を行い、工事完了後の検査に立ち会うなど自ら本件支出を容認し、これに賛同していた上、平成八年一一月九日の理事会でも、本件支出に賛成していた。

イ しかるに、被告Eは、その後、決算報告書への署名を拒否して本件支出が不正である旨主張し、一一月三〇日総会の冒頭、第六期理事会を非難する文書を議場で配付し、右総会及びその後の混乱の原因を作った。

ウ また、被告Eは、被告D及び同Cとともに、本件第一文書を配布して区分所有者に誤った情報を伝えた。

右文書は、事実に反する記載がされ、第六期理事会がリベートを作り出すために本件会社の紹介の業者に高い値段で工事を発注したと誤認させるものとなっており、被告らに委任状を託した区分所有者の中には、本件第二文書により第六期理事会や本件会社に不正があり、被告らに託せば管理運営が正常化すると誤信した者が含まれている。

エ さらに、被告Eは、本件臨時総会において、出席者の中からリベート授受の有無の解明を求める発言が相次いだにもかかわらずこれを無視し、議長に選任されるや、直ちに役員の変更、本件会社との管理委託契約の解除の決議をした。

なお、被告Bが理事長として招集した平成九年五月一八日開催の総会においても、予算超過に対する措置(本件支出を追認するか否か、事後同種の問題にどう対応するか等は)は協議されなかった。

(2)ア 仮に、被告Eが、本件支出が予算を超過したことを不正であり、本件工事にリベートが絡む、あるいは、本件会社従業員がY2の担当者と飲み歩くことをもって不正と認めて総会を招集したとすれば、このような事実はない上、これらについて調査もしないで不正があると誤信したことについては、被告Eに故意又は過失があり、善管注意義務違反がある。

イ また、仮に、被告Eが本件会社が監督料を得ていたことが不正であると認めたとすれば、この点は、理事会に出席していれば理解でき、また、本件会社に釈明を求め、あるいは理事会役員にも事情を尋ねれば不正のないことが判明したにもかかわらず、被告Eはこれらの措置をとらず、軽率にもこれを不正と決めつけたものであり、被告Eがそのように誤信したことについては故意又は過失がある。

ちなみに、被告Eは、監督料の問題を招集通知書その他の配付文書に記載せず、本件会社や原告側が被告らの誤解を解消する機会はなかった。

(3) 結局、被告Eは、本件工事に関し不正がないことが明らかであるにもかかわらず、又は善管注意義務を怠り故意若しくは過失により不正があるものと誤信し、本件第一文書を区分所有者に郵送して原告や本件会社を中傷し、リベートなる語感を利用して被告組合の理事や管理会社の変更を図ることを目的として本件臨時総会を招集したものであって、その目的は本件規約で認められた招集目的を逸脱し、招集権者である被告E自ら相手方を中傷しながらその権限の行使を標榜して招集したことは理事会役員に対する背信行為である上、その方法も極めて不適切であり、その結果、被告組合の運営を混乱に陥れ、区分所有者に対しても迷惑を与えたものであるから、被告Eの本件臨時総会の招集行為は、権利の濫用に当たる。

(八)  よって、右総会においてされた本件決議も無効である。

(九)(1)  被告らは、理事や監事でないにもかかわらず、第七期役員と称して理事会を開催し、被告Bが総会を招集したり、本件会社との管理委託契約の解除通知を発するなどし、現状を放置すれば被告組合の運営は混乱するばかりであり、第三者にも不測の損害を与えかねない。

(2) 本件規約六三条三項においては、「区分所有者が、この規約…違反したとき…には、理事長の決議を経て、その差止め又は排除のための必要な措置をとることができる」と規定されている。

被告は、区分所有者若しくは配偶者又は法人たる区分所有者の代理人であり、いずれも右規定にいう「区分所有者」に該当する。また、右「差止め又は排除のための必要な措置」とは、差止請求権を訴訟物とする訴訟の提起を含む。

(3) 原告は、本件規約上の管理者であり(本件規約三六条二項)、管理者は、規約又は集会の決議があれば、その職務に関し、区分所有者のために自ら原告となって訴訟を提起することができる(建物区分所有法二六条四項)。

被告組合においては、本件規約六三条三項により、理事長たる管理者が裁判上の請求をすることを許容しているところ、平成九年六月一一日、理事会を開催し、理事長が管理者として被告らに対する訴訟を提起する旨の決議をした。

2  被告らの主張

(一)  本件工事代金を一二〇〇万円とした根拠は、次のとおりである。

(1)  第六期理事会では、平成七年秋ころから、工事代金を安価に抑えるため自ら業者に見積を依頼した上、設計変更の可能性及び消費税の加算を考慮し、見積金額より高い一二〇〇万円を上限とする議案を提案し、総会において可決された(前記一2(二))。

(2)  第六期理事会は、本件会社の推薦を受けたY2を加え、再度見積を取った上、見積書も提出していない本件会社に代金一六〇〇万円で発注し、同社はY2にその一〇パーセントを控除した金一四四〇万円で下請けに出したが、その工事はいわゆる丸投げであった。

(3)  被告組合から、本件会社に対し、同年七月一〇日に一六〇〇万円が振り込まれ、同社からY2に対し、同月二二日に一四三九万八九八八円が振込送金された。

(4)  右は、総会決議違反であり、不正な行為である。

また、本件会社が取得した一六〇万一〇一二円は実体のない金員か、又は支払うべき理由のない不正な金員であり、監督料ではない。

また、監督料の支払について、理事会では話し合われていない。

工事監理とは、その者の責任において、工事が設計どおりに施工されているかどうかを確認することであり(建築士法二条6)、監理とは、監理の能力のない施主に代わって請負人を監督指導することであるから、施主と工事請負人との請負契約と施主と工事監理者との監理契約とは区分して取り扱われる必要がある。原告は、株式会社Y3設計事務所の会長であり、当然これを知っていた。

また、本件工事に関しては、本件建物の管理人が写真を撮影したにすぎず、本件会社は、実質的に監理をしていない。

さらに、被告Eは、本件会社の従業員R(以下「R」という。)が「Y2から二〇パーセントのバックマージンがある。RとY2の部長が毎日のように飲み歩いている。」と話した旨の情報を得た。

(二)  被告組合にあっては、組合自治を確立すべきであり、組合の区分所有者で決定すべきである。しかるに、管理会社たる本件会社がマージンを取得するといった話がその社員から日常的に出ており、そこで、被告Eは、本件会社に対する一連の行動の責任追求及びそれを許した役員に対する責任追求を目的とし、役員の選任(改選)及び管理会社の変更を議案として本件臨時総会を招集し、組合自治を確立しようとした。

(三)  管理組合に関する事項は区分所有者が決定するのが大原則であり、区分所有者の集まりである総会の決議が第一次的であり、理事長及び監事の総会招集権は、総会決議に仕えるものであって、この意味でいずれも二次的である。

また、総会については、その手続的適正が具備されている限り、実体的判断は総会に任せるべきであって、総会を招集することができる場合を限定的に解釈する必要はない。そのような限定的解釈は、総会の機能を限定制限して管理会社の事実上の権限を増大させ、本末転倒である。

かつ、当初予算一二〇〇万円を四〇〇万円超過する本件工事は、本件規約三九条二項にいう不正として、軽微とはいえない。

(四)  被告Eは、平成八年一一月三〇日総会が役員の退席で、平成九年二月九日総会が委任状の扱いをめぐっていずれも流会となった異常状態を受け、「雪除け工事に関する疑問点」において、四〇〇万円増となる仕様変更であれば、管理規約上もあらためて総会決議を得る必要があると思われるが、それが行われなかったこと、本件工事はこれを再検討する時間的余裕はあったにもかかわらず性急かつ安易にされたこと、業者決定の根拠とされた見積には「人工芝張付工事」が含まれているが、その後の理事会では省かれており(二〇〇万ないし三〇〇万円程度)、変更した内容で再見積を取って比較検討すべきであるにもかかわらずそれが行われていないこと、管理会社が受領した一六〇万円余に問題があることをそれぞれ記載して本件臨時総会を招集したものであり、不当な点はない。

また、監事は、理事会に出席する権利はあるが、理事会決議についての議決権はない。

したがって、予算超過について後日指摘することは右のような監事の役割として当然である。監事が予算を超過することを承認し、総会で決議がされ、管理組合又は区分所有者から、損害賠償請求等の責任追求をされた場合に、原告の主張を前提とすれば、予算超過を承認したため総会を招集することは権利濫用に当たり、その招集ができなかった旨を反論として主張することができるという不可思議な事態を招来する。

ちなみに、権利行使の目的に関し、被告Eは年金暮らしの退職者であり、形式的な権利行使に名を借りる必要性はない。また、被告BもEと同様の者、被告Dは開業医であり、不正な目的はない。

(五)  平成九年三月二三日総会において、被告Hを除く被告ら、S及びMを理事に、被告Hを監事に選任する旨の決議がされ、

(六)  原告は、五月二五日総会を招集し、別紙(二)記載の決議をしたが、原告には総会の招集権限がないから、右総会は存在しない。

また、原告は、同年一一月二九日、通常総会を招集し、請求の別紙(三)記載の決議をしたが、原告には被告組合の総会の招集権限がないから、右総会決議は存在しない。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一から四まで、六の一及び二、甲七から一〇まで、一一の一から三まで、甲一三から一五まで、一九から二四まで、二八、二九、三四から三八まで、四〇、四一、四六、乙一、二、三の一及び二、乙四の一から二〇まで、乙五の一から一〇五まで、乙六の一から三二まで、乙七の一から三〇まで、乙八の一から三〇まで、乙九から一六まで、二三、二五、二六、二九の一から四まで、三一から三六まで、証人K、原告本人、被告E本人、同D本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる(一部に前記第二の一の判断の前提となる事実の再摘示を含む。)。

1(一)  被告組合は、本件工事に先立ち、有限会社Y4(以下「Y4」という。)及びY5株式会社(以下「Y5」という。)に見積を依頼し、これを検討した上、平成七年一一月二六日の通常総会において、本件工事の予算上限額を一二〇〇万円とすることを決議し、工事の仕様、期間、業者の選定、発注金額等について、これを第六期理事会に一任した。

(二)  その後、本件会社が紹介したY2から、雪の落下量等を考慮すると本件工事の仕様には不安が残るとの指摘が出され、理事会は、当初の見積りには含まれていなかった本件建物の二階西側入口屋根工事、化粧パネル工事及び落雪による鉄骨の破損修理工事を追加した上、強度増加のための変更を加えるとともにコンクリートを増量し、平成八年一月一四日に開催された理事会において、見積業者を三社とすることを決定した。

(三)  同年三月三日に開催された理事会において、Y5(見積額一七五九万四三四二円)、Y6株式会社(以下「Y6」という。)(見積額二〇四二万六五五一円)及びY2(見積額一四七三万三五四〇円)の各見積(ただし、いずれも基本工事部分のみの消費税別の額である。)が比較検討され、最も低額の見積を提示したY2が施工業者に選定された。

(四)  同年四月六日に開催された理事会において、本件工事の請負業者を本件会社、下請業者をY2とし、本件会社に対する請負代金を一六〇〇万円とすることを決定した。

(五)  なお、本件工事について授受された書類は、次のとおりである。

(1)  本件会社の被告組合宛て平成八年五月九日付け見積書(見積額一一五三万三九八〇円)

(2)  被告組合の本件会社宛て同日付け注文書(金額一五五三万三九八〇円及び消費税四六万六〇二〇円の合計一六〇〇万円)

(3)  本件会社の被告組合宛て同日付け注文請書(金額は、右に同じ。)

(4)  Y2の本件会社宛て注文請書(金額一四三九万九四〇〇円)

(六)  本件工事は、平成八年四月から同年七月にかけて行われた。

(七)  被告組合は、本件会社に対し、平成八年七月一〇日、一六〇〇万円を送金して支払い、本件会社は、Y2に対し、同月二二日、本件工事代金として一四三九万八九八八円を送金して支払った。

2  一方、被告Bは、原告に対し、平成八年四月二五日付け書簡により、本件工事の発注額が総会で決定された一二〇〇万円を超えた点について説明がなく、理事長に対するリベートがあるのではないかと指摘し、本件会社を介して請負契約が締結されたことについても疑問を呈した。

3  平成八年一一月三〇日総会において、被告らを含む約一〇名の区分所有者は、同日の総会冒頭において、被告E作成の監査報告と題する文書(乙二三)を配付した。

右総会は、被告Dが議長となりこれを進行したが、本件工事代金の支出に不明な点がある、あるいは決算報告書に適正な決算内容であることを証する監事の署名がないとの指摘がされ、出席者の決定により決算報告の承認に関する議案の上程及び審議が中止されたことから、原告は、辞意を表明して退席した。

4(一)  被告Eは、同年一二月一二日、本件会社の小泉栄と面会し、本件会社とY2間の注文請書及び振込受付書の各写し(乙二五、二六)を受領し、本件会社が本件工事に関し約一六〇万円を取得していたことを知った。

(二)  また、同被告は、平成九年一月一五日ころ、本件建物の管理人であったT(以下「T」という。)の妻から、本件工事の期間が三〇日間程度であった旨、本件会社は本件工事の監理をしていない旨及びRがY2から二割のバックマージンが入ると述べている旨、RとY2の部長が毎日のように飲み歩いている旨等の話を聞いた。

5(一)  原告は、先に平成八年一一月三〇日総会で示した辞意を撤回し、平成九年一月、本件建物の区分所有者に対し、同年二月九日に総会を開催する旨の通知をした。

(二)  これに対し、被告らは、同年一月終わりころ又は同年二月初めころ、被告Dが起案した本件第一文書及び本件第二文書を本件建物の区分所有者に送付した。

(1)  本件第一文書には、次のような記載が含まれている。

ア 「日本ハウズイング社より送られてくる委任状には落とし穴があります。」

イ 「総会は理事長が一年間執行した事実に不正があるか否かなチェックする大変重要な集いです。」

ウ 「第6期理事長A氏には重大な不正行為があります。平成七年一一月の総会で上限一二〇〇万円として承認された雪よけ工事を総会に無断で一六〇〇万円支出しております。総会無視を許せば理事長は好き勝手なことができることになります。この裏に何があるのか是非皆さん知って下さい。」

エ 「第7号議案役員選出は特に問題です。A氏の再選と日本ハウズイングにとって都合のよい役員を彼らが選び、管理組合を無力化しようとする悪巧みが読み取れるはずです。」

(2)  また、本件第二文書には、次のような記載がある。

ア 「<1>雪よけ工事事件(一二〇〇万円以下で行うべき工事に一六〇〇万円支出=総会議決違反)の本質はリベート事件である。」

イ 「<2>特定業者(癒着業者)の選定、高い見積りによる施行、業者からのリベート、この財源は管理組合の修繕積立金である。」

ウ 「<4>不正事件防止に必要な事は組合員の自覚、信頼できる役員の選出、安心して任せられる管理会社の選定が不可欠。」

エ 「<5>役員選出は重要!…この議案が通れば組合の役員は日本ハウズイング社の都合のよいメンバーで占められ、組合は骨抜きにされる。」

オ 「<7>日本ハウズイング社から送付される委任状にはトリックがある。日本ハウズイング社に都合のよい人に権利が集中することは危険!!」

6  本件臨時総会において、被告Hを除く被告ら、S及びMが理事に、被告Hが監事に選任され、理事の互選により、被告Bが理事長に選任された。

7(一)  一方、流会となった平成九年二月九日総会後、本件会社の顧問弁護士の提案により、リベート問題特別調査委員会が設置され、同委員会は、K副理事長、中立の立場の組合員二名、右顧問弁護士、被告D推薦の弁護士等の専門家で構成されることとされたが、被告Dから専門家の推薦はされず、結局、右四人が構成員として調査を行った。

(二)  原告及び第六期の原告側理事は、本件臨時総会における効力を争い、その後も被告らと対立し、双方が正規の理事会を構成するとして独自の活動をするなどしたため、平成九年五月三日、原告側からK、その妻、I順子及びJが、被告ら側から被告D及び同Fが出席して話合いが持たれた。

(三)  Kは、本件会社やY2の銀行預金通帳その他関係書類を調査したが、Y2から本件会社又は原告への送金の事実は発見されず、同委員会は、平成九年五月一五日付け書面(甲三六)により、金銭の流れに異常や疑問点がない旨の中間報告をした。

二  本件決議の効力について

1(一)  本件規約三九条二項は、「監事は、管理組合の業務の執行及び財産の状況について不正があると認めるときは、臨時総会を招集することができる。」と定めているが、この規定の趣旨は、監事の監査権限を実効あらしめるために認められたものと解され、「不正」とは、一般には、理事の権限の逸脱行為、濫用行為等の違法又は本件規約に違反する事実を指すものであるが、自治的団体である管理組合の存在意義、目的等に照らして各組合員全体の利益に反するような行為も含まれると解するのが相当である。

そして、「不正があると認めるとき」とは、不正が明白であり、客観的証拠による裏付けのある場合が含まれることはもちろんであるが、その監事の監査権限(本件規約三九条一項)も万能ではなく、理事のする一切の行為について監事が仔細に監査することも困難であると解されるから、事後的・客観的に不正があるものと認定される場合に限定されるものではなく、通常の監査業務を遂行する過程において聞知し、又は発見した事由であって、合理的理由や資料により不正を疑うべき相応の蓋然性が認められる場合を含むものと解するのが相当である。

(二)  そして、被告組合にあっては、団体自治が妥当し、自律的な法規範の下に活動するものであるから、監事によって招集された臨時総会において、どのような対応を行うかは、基本的に総会の総意に委ねられるべきものと解される。

(三)  もっとも、監事は、理事と同様、組合に対し善管注意義務をもってその職務を遂行すべき義務を負うものと解されるから、これに違反し、故意に他の理事を貶めようとする場合のみならず、合理的理由もなく風聞等により不正があると軽信し、あるいは不正に関する情報に接して自ら調査等もせず、直ちに臨時総会を招集したような場合にあっては、右総会は、その実質的要件を満たさず、そこで行われた決議が瑕疵を帯びる場合もあると考えられる。

2(一)  そこで、検討するに、たしかに、Kらによる調査の結果によれば、いわゆるリベートが授受された事実は発見されず(前判示一7(三))、また、原告と被告E、同D及び同Cは、千葉地方裁判所平成九年(ワ)第一〇七一号損害賠償等請求事件において、被告らにおいて原告が本件第一文書及び本件第二文書記載のリベートを受領していないことを認める旨の和解を成立させたことが認められる(甲三九)。

(二)  しかるところ、被告Eは、その本人尋問において、被告Eの認識していたリベート問題は、原告自身に対する者ではないとする趣旨の供述をするが、前判示一2の被告Bが作成した平成八年四月二五日付け書面(甲三四)には、「理事長へのリベートか?」との記載があり、被告ら又はその一部の者は、原告自身に不正があることを疑っていた時期があることは否定できない。

(三)  さらに、弁論の全趣旨によれば、被告Eは、リベート本来の意味を正確に理解していなかった節がうかがえ、また、本件第一文書中の「理事長A氏には重大な不正行為があります。」との意味について、本件工事費が当初予算を四〇〇万円超過したことをいうものとした上、「この裏に何があるのか是非皆さん知ってください。」との記載については、経理乱脈であると供述するものの、その内容等についての供述は必ずしも明確ではない。

(3) (一) しかしながら、前判示一の経緯からすれば、被告Eが本件臨時総会を招集したのは、組合の運営をめぐる紛争に基づくものであるが、区分所有者の利益を図る目的に出たものと認められる。

(二)  そして、本件工事の予算額につき、平成七年一一月二六日総会において複数の業者の見積を基に消費税額等も勘案して一二〇〇万円と決定された経緯(前判示一1)からすれば、被告らにおいて、一六〇〇万円の本件工事費が右の総会決議に抵触すると考えたことにもやむを得ない面があり、本件工事費の増額が仕様変更等に起因するとしても、それが理事会限りで行われたことについて、詳細を把握していない被告Bが前判示一2のとおり疑問を抱くに至ったのも無理からぬ面があるものと思料される。

この点に関し、原告は、その本人尋問において、右の増額につき、本件工事が重要であり、冬季の到来前に迅速に行う必要があったこともあり、仕様変更による四〇〇万円程度の上乗せはやむを得ず、二〇〇〇万円程度の見積が一六〇〇万円に納まった旨説明すれば足りると考えたとする一方、原告は、事後に総会決議を得る必要があるとも考えたとする趣旨の供述をしており、平成八年四月六日理事会の議事録(乙一三)にも、本件工事費の変更について「次総会にて承認を得ることにしました。」と記載されたことが認められる(甲二、弁論の全趣旨)。しかしながら、事後的に総会決議を要すると認識していたとしつつ、平成一一年八月三〇日総会の開催招集通知の議案には、右増額の件が独立した議案としては掲げられておらず、第六期終始計算書中の修繕積立金の部における取り崩しの部中に決算額として一六〇〇万円が計上されているにとどまり、具体的説明はないことが認められ(甲二、弁論の全趣旨)、他の議案の記載の体裁に比すれば、通知を受領した者がその内実を理解することは必ずしも容易とはいえないものとなっている。

(三)  また、本件会社が請負人となり、監理費用等を受領することに明確な説明がされたことを認めるに足りる証拠もない。

この点につき、原告は、その本人尋問において、理事会の席上、本件会社が建設業務の登録業者であり、Y2は本件会社の紹介によるものであるから、本件会社に依頼すれば監理もスムーズに行くとの議論があり、本件会社に本件工事の監理をさせることを話した旨供述し、K証言中にも、理事会に出席した本件会社のUが本件会社において本件工事の監理をする旨述べたとの証言がある。

たしかに、本件会社は、設立後約四〇年を経て多数の従業員の擁する相当規模の企業であり、管理業、建設業、一級建築士事務所等の登録業者でもあることが認められる(甲三五)ものの、本件工事に関し、被告組合の理事会内部で監理料や監理内容について踏み込んだ議論がされたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、原告自身、その本人尋問において、監理料が一六〇万円であったことを後日知り、本件会社とY2間でどのような打合せがされたかも分からない旨供述しており、監理業務の内容やそれに見合う監理料の額がいくらか、また、当初Y2が提出した監理を前提としない請負工事価格が約一六〇〇万円であることの当否について、理事会又は原告自身においてどの程度吟味されたかは疑問を留保せざるを得ない。

(四)  さらに、被告Eが聞いたTの妻の言辞(前判示一4(二))についても、Tが本件建物の元管理人であり、格段これを疑うべき状況が存したともうかがえない。

この点に関し、被告らがR等に本件会社とY2間の金員の授受等に関する事実関係を直接確認したとは認められないとしても、それ故に被告らにことさら確実な調査を怠り、あるいはこれを軽信したとまでは認められず、被告Eにおいて、Tの妻の言辞について、少なくともその骨子は事実を反映したものと理解するに相応の理由があったものと考えられる。

(五)  右のような事情を勘案し、さらに、被告Eは、当初明確化されていなかった本件会社に対する監理料について、実際には本件会社が約一六〇万円を収受したことにも問題があると推断しているものと認められる(甲二八、弁論の全趣旨)ところ、右推断も前記(三)のような経緯に照らしあながち不当であると断ずるには至らないことをも併せ斟酌すると、被告Eにおいて、被告組合の運営に不正があったと疑うに合理的理由は存したものと認められる。

4  なお、被告Eは、理事会に毎回出席し、本件工事を本件会社に対し一六〇〇万円で発注するについても、特に異論を差し挟まなかったことが認められる(甲二八、被告E本人、弁論の全趣旨)。

しかしながら、右は、建築関係には知識の薄い被告Eが一六〇〇万円を要することに特段の疑問を感ずることがなかったものであることがうかがわれる(甲二八、被告E本人、弁論の全趣旨)のであって、その後、総会決議違背となるおそれがあることを認識するに至った場合にこれを問題にすることが許されないと解されないし(かえって、自らの従前の職務執行を是正する意味を有するものと評価される。)、一六〇万円の監理料が含まれていたこと等を知るに及び当初の価格設定に不信感を強めた側面も看取され、被告Eが事前に一六〇〇万円の支出に異議を唱えず、あるいはこれを容認したことをもってその後の被告Eの行動が直ちに不当なものとなるとも解されない。

5(一)  もっとも、役員選任は、この種の自治的組織にあっても重要な事項であるから、取り分け本件のように不正の疑いの有無に関連して組合運営が問題となったような場合にあっては、その方法の選択や実施手順については慎重であるべきであって、臨時総会における役員改選以外の別の方法や態様による対応を選択する余地がなかったかはなお問題にする余地がないではない。

この点、証拠(甲三七、三八、K証言、被告E本人)によれば、Kは、平成八年一一月三〇日総会において、リベート問題を明確化するよう求めたが、取り上げられなかったことが認められるのみならず、被告E自身、その本人尋問において、積極的に理事会内部で問題解明に当たる確たる意図はなく、右総会の目的も理事会及び管理会社を変更することが目的であったことを自認する供述をしている。

また、原告の陳述書及びKの陳述書には、被告Eは、本件臨時総会において、リベート問題についての見解を示して欲しいとの出席者からの要求に答えられなかったとする旨の各記載があり、被告Eの本件臨時総会の招集及びその実施態様についてはいささか性急であるとの感もないではない。

(二)  しかしながら、被告Eは、本件臨時総会の招集通知(甲一一の一、乙一)において、本件工事費が四〇〇万円増となる仕様変更であれば、管理規約上もあらためて総会決議を得る必要があると思われるが、それが行われなかったこと、本件工事はこれを再検討する時間的余裕はあったにもかかわらず性急かつ安易にされたこと等を述べ、これまでの事実経過をかなり詳細に記載し、監査の結果疑問が生じた事項を率直に列挙するとともに、総会が二度も流会となったこと、そのため被告組合の運営が滞っていること、本来理事会の責任において混乱を収拾すべきところ、それが実現されないでいることを述べ、運営正常化のため新役員の選任等を議題とした旨説明していることが認められ(甲一一の一、乙一)、ことさら事実を隠蔽し、原告らを陥れようとする意図は看取されず、かえって監事としての職務を全うしようとする姿勢がうかがえるところである。

(三)  また、前判示一の事実、証拠(甲四、四〇)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(1)  平成八年一一月三〇日総会後、本件会社の顧問弁護士から、原告が退任した上、原告側区分所有者とこれに反対する側から半数ずつ理事を選出する方法が提案されたが、原告がこれに応じず、平成九年二月九日の総会開催通知(甲四。前判示一5)を出した。右通知には、被告らの行動を非難する趣旨の記載のほか、被告Eについて、右総会前に行われた理事会において決算報告の内容に異義を述べなかったにもかかわらず、右総会の場で、突如決算報告の内容を批判する文書を配布し、議事混乱を招いたとしてこれを非難する記載がされている。

(2)  また、これに添付された上提議案説明書に掲げられた第七期理事及び監事選任の件の内容は、理事、監事の定数を合計八名とし、うち四名を留任させ、新たに選任する新理事及び監事の選出方法について、従来の自薦及び他薦方式から輪番制に改め、新理事及び監事経験者及び管理費等滞納者を除いた者を住戸番号に従って四ブロックに分け、各ブロックから、リストに基づいて順番に就任意思を確認し、就任意思を示した一名を選出する、現理事会構成員中原告ほか三名が留任するというものとなっており、各区分所有者に対し、議決権行使を原告に委任する旨の委任状が送付されていた。

(四)  これらの経緯からすると、被告Eらは、原告側が反対者を排除する動きに出たものと受け留めて、本件第一文書及び本件第二文書を配布するに至ったものと認められ、しかるときは、当時、組合の運営を巡る対立が深刻化し、総会がたびたび流会になり、進展がなかった状況にあったものと推認されるから、被告Eが本件臨時総会を招集したことについては、その打開についてこれを総会の意思に委ねたものと認めることができ、このような事態の推移にかんがみると、その招集行為が不当であり、本件決議の無効をもたらす違法な瑕疵を帯びるとまでは直ちに認められず、他にそのように解すべき事由や証拠は見出されない。

6  以上の検討からすると、被告Eにおいて、本件臨時総会の開催及び新役員の選任によったことが唯一無二の方法であったとまではいえないとしても、前判示二1(一)で検討した招集要件を満たしていないとは認められず、また、この方法によったことが著しく不当であり、あるいは権利濫用に当たることを基礎づける十分な事実が存すると認めるにも至らず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

三  そうすると、本件臨時総会における本件決議により、被告Hを除く被告らは、被告組合の理事に、被告Hはその監事に選任されたことになり、それらの理事の互選により理事長となった被告Bは、本件規約三六条二項にいう管理者であると認められるとともに、原告がその後に招集した総会は、招集権のない者によって招集されたものというほかなく、その手続的瑕疵は重大であるから、その各総会における決議は、存在しないといわざるを得ない。

四  以上によれば、甲事件原告は、被告組合の理事ではなく、したがって、理事長でもないとせざるを得ないから、本件規約三六条にいう区分所有法上の管理者には当たらないというほかなく、したがって、甲事件の原告の請求は却下せざるを得ない。他方、乙事件の各原告の請求は、いずれも理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 内堀宏達)

別紙<省略>

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